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スコット・スニッブは近年ビョークなどのアーティストの映像やアプリなど、グラフィック全般を担当するNY出身のメディアアーティストで、2010年に発表したアプリ、Gravilux、Bubble Harp、Antographなどはいずれも高評価を得るなど、今を代表するアーティストと言える。今回ビョークやパッション・ピットとのコラボレーション、そして音楽の未来について話を伺った。あなたはビョークのアルバム『バイオフィリア』のビジュアルを担当し、最近ではアルバム用アプリを制作したことや、数々のインスタレーションの制作で知られていますが、3次元の作品の方が、自由度は高いと思いますか? それとも最近はタッチスクリーンに注目しているのでしょうか?
タッチスクリーンの方が物理的な制約がないから自由だね。インタラクティブなデジタルアートは僕が最初に興味を持ったアートで、1980年、僕が10歳の時からApple IIなどのコンピューターを使いながら2002年まで続けてきた。でも90年代半ばにインスタレーションへ方向転換したんだ。当時は美術館やギャラリーのインスタレーションを観に来る人が多かったし、僕自身も指先で感じてもらうよりも、体全体で感じてもらう方が良いと思っていたからね。でも、App Storeがオープンして、僕はびっくりしたよ。かつて作っていたインタラクティブなデジタルアートにまた戻って、今度こそ多くの人にそれを届けることが出来ると知って、本当に嬉しかった。ソフトウェアの世界では、自分を制限するのは自分の想像力と能力だけだ。現実世界では材料や道具、許可などいろいろな制限があるけれど、ソフトウェアにはない。そしてApp Storeができた今、発売も自由にできるようになったよね。
最近はパッション・ピットと仕事をしているようですね。
彼らのニューアルバム『ゴッサマー』に絡めた新しい音楽アプリなんだ。最初はシングル「Take a Walk」に映像をつけただけだったんだけど、そこから2曲入りのアプリ「EP」でコラボレーションをすることになってね。このアプリに入っている曲は、2つのモードで楽しむことができる。ひとつはインタラクティブなミュージックビデオで、再生するたびにグラフィックやアニメーションが変化する。自分でタッチすることで自分だけのミュージックビデオも作れる。
2つ目のモードは、「リミキサー」モード。パッション・ピットの素材を使ってリミックスを行うことができる。例えば「Take a Walk」では、ハープのような音が出る蜘蛛の巣を鳴らして、メインメロディーを付け足すことができるし、もう1曲「Carried Away」では、楽曲のパートのオンオフをタッチパネルで自由に行える。遊んでくれた誰かがYouTubeにアップしてくれるのを楽しみにしているところさ。
Virusというアプリでは、彼女の楽曲のストーリーをなぞるように顕微鏡の中の世界を描いた。このアプリを立ち上げると、細胞がウィルスによって攻撃されているシーンになるから、プレイヤーはまずその細胞を守りたいという気持ちになる。でも、その細胞をウィルスから守ってしまうと、楽曲が止まってしまう仕組みになっている。つまり、楽曲を聴き通すには、細胞がウィルスによって攻撃され、そのウィルスが更に他の細胞を攻撃し続けなければならないんだ。
ビョークは自然のもつ恐ろしさを伝えたいと言ってきた。彼女は氷河やシャチに囲まれて育ったからそう感じるんだろうね。でも僕はその点はあまり作品に活かしていない。なぜなら僕はビーチ生まれだからさ(笑)。でも自然や自然のアルゴリズムを活かした作品は数多く作っているし、タッチスクリーンを使うことで、普段は小さすぎたり、見えなかったり、大きすぎたりする地球の不思議や、物理の魅力を伝えていければなと思っているよ。
アナログレコードのファン、そして最近はCDのファンまでもがMp3に人間味を感じないと批判しています。インタラクティブなモバイルアプリが、Mp3に人間味を加えると思いますか?
僕はMp3が人間味に欠けているとは思わないな。ただスピーディーなだけさ。通りを歩く他人をチラリと見るような感覚で使ってしまうんだ。でもアプリを使えば、自分の感覚をフルに使うというか、少なくとも聴覚、視覚、触覚を使って音楽を楽しむことで、LPレコードの感覚を取り戻すことができる。そういう形で自分の五感を目一杯使うのがLPレコードの良さなんだけど、残念ながらもう基本的には死んでしまったに等しい。12インチのレコードにあった、大きなアルバムアート、ライナーノーツ、そしてステレオの前に座って音楽を楽しむという経験に近いものを今度はアプリが提供する。LPレコードが消えたと泣くのではなくて、その代わりに何か新しいものを生み出せばいいのさ。
パッション・ピットとのコラボレーションアプリ
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