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【美女と妄想してみた。vol.13】長澤まさみと過ごす大人のバレンタインデー!

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先週末にも都心には45年ぶりの大雪が降ったというのに、空は飽きもせず、今日もまた東京を真っ白に染めていた。そしてぼく、相沢直は、先週に引き続きうんざりした顔で自分の握った寿司を宅配している。
うちは三代続く寿司屋である。ぼくが33歳になった去年の誕生日、親父は早々に店を一人息子に譲り、ハワイでスシバーを開店させると言って海を渡った。33歳とは言え高校卒業とともに店に立っているから、一応は握れるし、口うるさいお客に色々言われながらも、まあ何とかやっていけている。たまに思う。もう自分は、子どもじゃないんだなと。

子どもの頃ならわくわくして楽しんでいた雪景色も、この歳になると迷惑この上ない。しかも大雪の中、寿司を宅配するとなると、この空が恨めしくなる。こんな天気で客も来ないだろうからと店は閉めたが、家から出たくないのは誰だって同じ気持ちのようで、夜になって寿司を届けてほしいとのお客からの電話に、やはり客商売としては対応しなくてはならない。ご新規さんなら断るが、お馴染みさんからのお願いを無下に断ることなど出来るわけがなく、こうして雪の中、寿司を運んでいる。大人ってのは、つらいよ、まったく。

だがそれも、この一件でようやく終わりだ。店に戻ったら、二階の自宅でこたつに入って足を伸ばし、あたたかい番茶でも飲んで、と考えながら店の前に戻ると、軒下に誰かがあちらを向いてしゃがみ込んでいる。どうやら女性のようだ。誰だ、一体、こんな時間に。こちらの気配に気付き、女が振り返る。お互い、吃驚した顔。で、彼女はぼくに、怒った顔を作って笑いながら言う。
「もう! 大将、遅いよ!」
長澤まさみだった。昔、本当に昔、ぼくらが本当に子どもだったころ、ご近所さんだから仲良くしていた、女友達でもある。でも彼女はずいぶん前に引っ越してしまったから、何でこんなところにいるのかはさっぱり分からない。
ふと、彼女の足下に目をやると、そこには彼女が作ったらしき小さな雪だるまがこちらを向いて笑っていた。何をはしゃいでるんだ、長澤まさみ。子どもじゃないんだからさ。

(※注)
本記事は個人の妄想を勝手に書き連ねたものであり、以下の写真は本文の内容とは一切関係ありません。


「まさみ、番茶。熱いから気をつけてな」
「うん。ありがと」
ぼくはこたつの机の上に、淹れたての番茶を置く。まさみは、こたつに両手と両足を入れ、凍えた体を暖めている。その様子と、どこか遠くを見るような表情がひどく大人っぽくて、ぼくは少しだけ緊張する。
その気持ちを悟られないように無理に怒ったような声色で、
「大体さあ、来るなら来るで、連絡くらい入れろよな」
彼女はほほをふくらませて、
「はあー? せっかく手伝いに来てあげたのに、何その言い草! バカじゃないの?」
男まさりな性格と口の悪さは、あの頃の、子どものときと変わっていない。なんか、ちょっとだけ、ほっとした。

聞けばまさみは、この大雪のなか一人で店を回すのも大変だろうと、手伝いに来てくれたらしい。ありがたい話だ。でもその感謝の気持ちを言葉にしてしまうと、何か大切なものが壊れてしまいそうな気がして、ぼくは少しだけ戸惑っていた。
そんなぼくの気持ちも知らずに、まさみは意地悪っぽくニヤニヤと笑いかける。

「しかし直くん、こんな日にも一人だなんて、相変わらずですねえ」
「え? ああ、でも、仕方ないだろ。たまにバイトの子に来てもらうこともあるけど、こんな雪だと帰りも大変だろうし......」
「いやいや、こんな日、って、そっちじゃなくてさ」

言ってる意味がよく分からなかった。こんな日、ってどういうことだ。今日は何の日だったっけ、と考えて、ようやく気付く。
「ああ! 今日、バレンタインデーか!」
まさみは呆れてため息をついて、
「いま気付いたの!? 直くん、相変わらず『モテないくん』だなー」
ぼくは思わず苦笑して、
「いや『モテないくん』って。いつの言葉だよそれ。おばさんか」
彼女はイーっと口を横に開いて、
「うるさいなあ。まだ私、26歳だし。33歳のおじさんに言われたくないっ!」

そっか。もう、26歳か。彼女が小学生のころから知っているから、不思議な気分だった。お互い、もう子どもじゃないんだな、って、当たり前のことをまた思う。
「そんな可哀想なおじさんには、プレゼントでもあげましょうかねぇ」
と言って長澤まさみはバッグから、コタツの机の上に、次から次へとチョコレートを置いていく。彼女がコマーシャルに出演しているガーナチョコレートだ。
「おい、まさみ、ちょっとこれ、何だよ?」
「今日、バレンタインデーだから、色んなスタッフさんとか共演者の人に配ってたの。いっぱい余っちゃったから、せっかくなら、モテない直くんにあげようかなって」
ぼくはつい笑ってしまう。
「せっかくなら、って、あのさあ。義理チョコだって、渡し方ってものがあるだろ」
彼女もまた微笑んで、
「あのねえ、直くん。義理とか本命とか、子どもじゃないんだから。そんなのないでしょ、この歳になって」

まあ、そりゃ、確かにその通りだ。現にぼくだって、今日がバレンタインデーだってことさえ忘れていたくらいだし。義理チョコとか本命チョコとか、そんなことをいちいち考えて一喜一憂するような、もうそんな歳じゃない。それはもしかしたらちょっぴり悲しいことなのかもしれないけど、そういうものだ、仕方ない。
まさみは、ふと思いついたように、
「あ、そう言えば」
とバッグの奥を探して、
「これもついでに」
取り出したのは、封も開いて、銀紙の中には半分ぐらいしか残っていないチョコレート。
「何だよ、これは」
「近い人には、手作りチョコレート、渡したんだけど。そのとき使ったチョコの余り。ついでに、もらっておいてよ」

彼女はそう言って封の開いたチョコレートをぼくに渡して、平然とした顔で机の上の未開封のチョコレートを開け、かじっている。
「まさみ、あのさ、こういうこと言うの何だけど、俺にはその、手作りチョコとかないわけ?」
「うん。もう、売り切れちゃったから」
あまりにも当たり前のような顔をしてそう言われると、ぐうの音も出ない。
「もう、義理とか本命とかじゃなくて、人としてどうかと思うわ、それ......」
ぼくはあきらめて、長澤まさみからもらった封の空いたチョコレートの銀紙をはがそうとする。と、彼女はちょっと驚いたように、
「あ、いま食べちゃう?」
ぼくはぽかんとして、
「え、ダメなの?」
「いや、全然。どうぞ、召し上がれ」
彼女は再びぼくから目を離して、チョコレートをかじっている。なんか変な空気だ。取りあえず、ぼくは銀紙を剥がしてみる。
半分ほどの大きさに割られたガーナチョコレート。その上には、白いチョコレートペンで、ハートマークが描かれていた。ご丁寧にもハートマークの横には「本命」と書かれている。

まさみは、何も言わずに、こちらを見ることもなく、チョコレートをかじっている。冗談めかして、ぼくは言う。
「義理とか本命とか、子どもじゃないんだから、って言ってなかったっけ」
彼女は少し考えて、こちらを向いて、怒ったように言う。
「一年に一度くらい、子どもになる日があってもいいでしょっ!」
まさみが、うるんだ瞳でこっちを見ている。子どもになる日だなんて言っておきながら、大人っぽく、潤んだ瞳で、ずるい。

ぼくは彼女が作ってくれた、本命チョコを一口かじってみる。甘くて、苦くて、子どものような、大人の味だ。彼女は自分の唇を指さして、その後でぼくの唇を指さす。ぼくの瞳をまっすぐに見つめて、小声で言う。
「いま、おんなじ味、してるんだね」
ぼくらもうすっかり大人だから、キスのタイミングくらいは分かってしまう。子どもじゃないから、焦らずにゆっくりと、唇を近づける。それはきっと、甘くて苦い、キスだろう。

外ではまだ雪が降っている。天気予報によれば、夜更けまで雪が続くらしい。その雪が雨に変わるころ、ぼくとまさみの関係もまた、ちょっとだけ変わっていることだろう。ぼくらもう、二人とも、すっかり大人なんだから。

(相沢直)

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