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起死回生の一発逆転、どんでん返しで捲土重来。
こんな言葉ばかりが浮かんでは消える毎日。そう、私は切羽詰まっているのである。
そんな私も、もう不惑と呼ばれる年齢になった。
40歳といえば、多くの男性の場合、人生のピークだろう。
実際、同世代の友人知人たちは、大きな仕事を任されたり、ベストセラーを出版したりと、スポットライトの当たる場所にいて輝いている。
それにひきかえ私は、切羽詰まっている。
<切羽詰まっている筆者>
フリーランスのライターとして、なんとか食べることはできているが、どうやらそれ以上にはなれそうにはない。
「好きなことを仕事にしていて楽しそう」「嫌な上司に仕えているよりマシだよ」という励ましを受けることもあるが、先の展望がないことへの慰めにはなっていない。
私だって、いつかはビッグになって、派手な暮らしがしてみたい。
人生の大逆転を、一発やってのけたいのである。
しかし、仕事の上でそれを実現するのは困難である。
私には、そんな度量などない。
私の置かれているこの状況を考えれば考えるほど、もうこうなったら、宝くじに人生のすべてを賭けるしかないのではないか。
そこで目をつけたのが、スポーツ振興くじの「toto」である。
当たれば最高で2億円の当せん金が手に入るサッカーくじに人生を、生きる喜びを託そう。
原稿執筆次点で「toto」の、前回(679回)の1等当せん金額は8998万3932円であった。Jリーグ13試合の勝敗を予想して当てればいいだけなので、なんだか自分にも当たりが舞い込んできそうだ。少なくとも、仕事で成功するよりは実現の可能性が高いと考えられる。
もし8900万円当たったら、どうしようか。
目標を達成させるためには、目標がかなった時の自分を詳細に想像してみるのがいいと聞いたことがある。
当せんさせるためには、当せん金の使い道を念入りにシミュレートしてみる必要があるのではないか。人生の一発逆転を、詳細に想像してみようと思うのだ。
ということで、8900万円を持って、いままで欲しかったものを買いに出かける。
まず、8900万円というのはどれくらいの重さなのか。調べたところ、1万円札1000枚、つまり1000万円でおよそ1.05kgほどだという。ということは、8900万円だと約9.3kgだ。
9.3kgものお金を持って、買い物なんてできるんだろうか。
もちろん実際のお金で確かめることはできないので、同じ重さの重りを作ってみよう。
重りとしてまず思い浮かぶのが焼酎だというのが、今の切羽詰まった状況を如実に表してしまっているわけだが、思いついちゃったんだからしかたがない。
大五郎ですらない格安の4リットル焼酎とダンベルを使って、9.3kgを再現してみた。
正確に9.3kgとするために、焼酎の量を減らして調整したが、飲んで減らしてしまったので、さらに切羽詰まった状況になってしまった。
この8900万円に見立てた焼酎ならぬ1万円札をリュックに詰めて、まずはあこがれのスーパーカーを買いに行こう。
8900万円が入ったリュックは、腰にずっしりとくる。
地下鉄の階段を上るのは結構な重労働だ。酔った体にはキツイ。
青山にあるスーパーカー売り場にたどり着くまでに、リュックの中身を飲んでしまおうかと思ったが、こんなソフィスティケーテッドな青山でリュックの中から4リッターの焼酎を取り出して飲むのは、さすがにはばかられる。超えちゃいけない一線であろう。
私にもまだその程度の理性が残っていることに、我ながら感動をおぼえた。
スーパーカーを買ったら、次はマンションでも買おうか。
いつかは俺だって、ネオヒルズ族になってみたいと思い、六本木ヒルズへと向かった。
六本木ヒルズは駅から結構な距離がある。ここを8900万円背負って歩くのはなかなか骨が折れる。
出発前に飲んだ焼酎がさめてきてしまったので、酒屋に寄ったが、並んでいるのはワインや見たこともない洋酒ばかりで、カップ入りの焼酎は置いていなかった。この町は、私には向いていないらしい。
お金持ちになったら行きたいところ、といえば銀座だ。
私にとって富と栄光の象徴が銀座である。
銀座の高級ブランド店で、「じゃあ、この棚ひとつもらおうかな」と言ってみたい。
そんな場合、リュックで店に訪れると入口にいる白い手袋をしたお兄さんに怪しまれる可能性があるので、気をつけたほうがいいだろう。
事実、私は怪しまれた。とても店に入れる雰囲気ではなかったのである。
いい加減、歩き疲れてきたので、銀座の高級クラブでパーッとやりたいものだ。
当せん後のあれこれを妄想していたら、切羽詰まった感じも薄れて、ちょっといい気分になった。この際だから、本当に高級クラブに行ってしまおうかとも思ったが、リュックに入っているのは焼酎である。きっと銀座のクラブは、持ち込みとか禁止だろうから、やめておいた。
8900万円を背負った状態での買い物はとても疲れそうではあるけれど、不可能ではないということが確信できた。
また、当せん後の自分を想像することで、私にもまだ「未来」というものが、ひょっとしたらあるのではないか、とも思えるようになった。
切羽詰まっている状況に変化はないが、少なくとも、ちょっとの間それを忘れることができたのは間違いない。
私のように切羽詰まった状況に置かれている読者諸兄も、この際「toto」を購入してみてはいかがだろうか。
(工藤考浩)
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