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作家の企みに思い切りハマる  「掏摸」の作者が放つ本屋大賞候補作とは?

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今年の「本屋大賞」発表は4月8日。全国の書店員の二次投票によって決められた大賞1作が決まります。二次投票は、一次投票で10作に絞られた候補作の中から、自分が推したい3冊を選び、それぞれ1位、2位、3位と順位付け。それぞれ得点換算し、集計結果により大賞作品を決定するというものです。


2010年に『掏摸』を発表し、日本人で初めて米国の文学賞「デイビッド・グディス賞」を受賞した中村文則氏の『去年の冬、きみと別れ』も候補作の一つ。章立てになっていて、1、2とナンバリングされた通常のものとは別に、「資料」と書かれた章もあることが本書の特徴です。

主人公はライターの「僕」。彼には、猟奇殺人事件で死刑判決を受けている被告にインタビューし、事件について本を執筆するというミッションがあります。被害者の女性2人、被告の姉、愛する人に瓜二つの人形を作る男、そして、この人形師に制作を依頼する人々...。被告のまわりの人物たちが思いもかけない関係を形成しています。

おそらく読者の誰もが、タイトルにある「きみ」がこの人だったとは!と驚くのでは。作者の企みにはまることで快感を覚える作品ということもできそうです。

絶対に結末を先に読まないでください...と言いたい作品。構成のうまさに注目しがちかもしれませんが、人間の心に澱のように存在する悲しみや憎悪の表現も著者の得意とするところです。「心の闇」という単純な言葉では言い表せない、人がふつう気付いていない心理を著者が暴く瞬間、鈍い閃光が光る。そんな印象を持つ読者も多いのではないでしょうか。

【書籍データ】
・『去年の冬、きみと別れ』中村文則著 幻冬舎

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