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長年多くの日本人の心を掴み続ける「ジャニーズソング」において行われてきた"サンプリング"や"オマージュ"を紹介するシリーズの第3弾。本記事で紹介するのは、2012年に発売した山下智久のNEWS脱退後初のシングル『愛、テキサス』だ。
前2記事では、SMAP『がんばりましょう』で行われたアイドルソング史の歴史を変えたサンプリング(過去の曲の一部を引用し再構築すること)、嵐の『a Day in Our Life』で行われた先輩・少年隊への「オマージュサンプリング」を紹介してきたが、この『愛、テキサス』は、タイトル・ミュジックビデオ・世界観・サウンドすべてにオマージュやサンプリングの要素が詰まったミステリー感満載の曲なのである。ただし、前2曲がネット上のソースなどに基づいた事例であるのに対し、これから紹介する『愛、テキサス』に含まれたオマージュやサンプリングは、筆者による"予想"の範疇を越えていないことはご了承願いたい。
NEWSを脱退し、山下がソロとして活動していくことを宣言したうえで最初に発売されたこの『愛、テキサス』。バンド・相対性理論のギター担当である永井聖一が作曲し、同バンドボーカルのやくしまるえつこが作詞を担当している。独特な世界観の遊び心ある良質なポップソングを多数生み出しているこの相対性理論の2人が制作を担当しているということで、同曲に複数の"発見ポイント"が秘められているのは必然といえるかもしれない。
まず、タイトルがオマージュしているものは、非常に分かりやすい。1984年のカンヌ受賞映画『パリ、テキサス』を意識していることは明らかだ。テキサス州の砂漠地帯を主人公の男が歩いているシーンで始まる同作。『愛、テキサス』のミュージックビデオにも、映画の世界観を思わせる砂漠風景や、実際の劇中の場面と重なる線路の上を歩くシーンなどが収められている。しかし、歌詞の内容が同作をふまえたものになっているかといえば、そういうわけではない。
『愛、テキサス』の歌詞は、非常に難解だ。何か良からぬことに巻き込まれている男の戸惑いや述懐を歌っていることは分かるのだが、どんなことに巻き込まれているのかはさっぱり分からない。その気持ちはファンも同じなようで、「Yahoo!知恵袋」で検索してみると、同曲の歌詞の意味を問う質問が多数登場する。回答には、2005年のアメリカ映画『ブロークバック・マウンテン』からのオマージュである可能性を丁寧に予想する見事なものもあるが、実際にどんな背景で書かれている歌詞なのかは、作詞したやくしまる本人にしか分からないだろう。
ただし、ここでひとつ可能性を挟みたい。『愛、テキサス』をリリースした2012年2月時点、山下の年齢は26歳。そのおよそ23年前、25歳という近い年齢で、「何か良からぬことに巻き込まれている男」がテーマになっている不思議な世界観の曲を歌ったジャニーズのソロアイドルがいたのだ。
そのアイドルとは、近藤真彦。曲は、THE BLUE HEARTSのメンバーだった真島昌利が作った『アンダルシアに憧れて』だ。この曲の、「結局何が起きているのかは分からない」という世界観も、『愛、テキサス』と似通っている。作る歌詞の内容から、過去のあらゆるサブカルチャーに精通していることが伺えるやくしまる。偉大なるジャニーズの先輩の名曲のエッセンスを後輩に受け継がせる、という遊び心を加えたのかもしれない。
そして、サウンド。相対性理論の楽曲には、耳に残るギターリフで始まる曲が多数あるが、この『愛、テキサス』も同じく、印象的なギターリフで始まる。このギターリフ、よくよく聴いてみると、サンプリングの可能性が浮上する。その元ネタは、1983年の長渕剛の楽曲『恋人時代』のイントロのギターリフだ。ただし、これもあくまで可能性だ。ギターリフは驚くほど似ているが、曲全体は異なる印象になっている。「パクリ」といった類の指摘ではないことをご理解いただきたい。
まとめると、こういうことだ。『がんばりましょう』や『a Day in Our Life』も含め、ジャニーズの曲にはときおり、アイドルファンだけでなく、幅広い世代や本格的な音楽ファンを楽しませるような"仕掛け"が用意されているのだ。『愛、テキサス』についてはあくまで予想で書かせてもらったわけだが、つまりは、そのような予想・発見をする楽しみが含まれているということ。ジャニーズの楽曲からは、今後もあらゆる点で目が離せない。
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